2017年2月17日金曜日

第3回期日(口頭弁論)の概要報告

 マイナンバー制度のプライバシー侵害を訴え、国に対し番号の利用停止などを求める「マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川」の第三回期日(口頭弁論)が2月9日、横浜地方裁判所で開かれました。
 今回も横浜地裁で最も大きい101号法廷(傍聴席84席)が用意されました。傍聴席が埋まるかどうか不安でしたが、当日は整理券が配布され、空席も目立たないほどでした。原告席には原告代理人(弁護士)と原告の計20名が着き、国側は6名が被告席に着きました。

 午後4時に開廷。
 はじめに、裁判長から原告の意見陳述の内容について、「個人番号カードの発行数など、訴訟の趣旨と関係のない内容が記載されている」との指摘がされました。

 次に、原告側が提出した2つの準備書面(弁論内容をまとめた書面)について、4名の弁護士が意見陳述しました。
 まず、石畑・竹本・大野各弁護士が準備書面4に基づき、住基ネット最高裁判決を踏まえ陳述しました。
 石畑弁護士は、京都府学連事件や指紋押捺事件などの判決を引き、そもそも住基ネット最高裁判決がプライバシー権を「開示又は公表されない自由」と限定解釈していることが問題だと指摘。マイナンバー制度の対象となる個人情報は住基の基本4情報よりも格段に秘匿性が高く、住基ネット判決をそのまま用いることはできないと強調しました。
 竹本弁護士は、住基ネット最高裁判決における目的論(秘匿性の高さに比例した実質的な目的が必要)と比較して、国側の制度目的を反論。①「国民の利便性向上」については、住民票のコンビニ交付やマイナポータルは国民の利便性に資さない、②「行政の効率化」については、国側は明確な費用対効果は明示せず、行政機関はマイナンバー関連事務・費用など負担が増大している、③「公正な給付と負担」については、マイナンバーで全ての取引や所得の把握は不可能だと国側も認めている――とし、秘匿性の高い個人情報を扱うのに見合った高度の実質的目的がなく違憲だと主張しました。
 大野弁護士は、被告側が主張する「情報漏洩等の危険性がない」とした住基ネット最高裁判決に対し、具体事例をもとに反論。特に、中野区のマイナンバー担当の元臨時職員による個人情報への不正アクセス・居宅侵入など、制度悪用はすでに起こっていること、制度の取り扱いを管理監督する「個人情報保護委員会」の組織が委員長1名、委員8名と、脆弱と言わざるを得ず、「国が主張するプライバシー権保障は破綻している」と強調しました。

 続いて、小賀坂弁護士準備書面5に基づき、マイナンバー制度の根幹となる「情報提供ネットワークシステム」が国の管理下にあることの問題を指摘しました。いかに複雑な「符号」などを使ったとしても、国がシステムを直接管理するということは、国が勝手に個人情報にアクセスし、欲する情報を自由に名寄せできる仕組みということ。この事実は国民生活を委縮させ、個人の自己決定や表現の自由を困難にし、民主主義の危機を招く可能性があると主張しました。また、システム管理を第三者機関が担うオーストリアと比較。国が直接管理することはプライバシー保護の観点からは致命的な欠陥だと強調しました。

現場は「事実上の強制提供」、「やりたくない」が実態

原告の辻村さんが意見陳述


 次に、原告代表として税理士の辻村祥造さんが、税理士と国民の両方の立場から意見陳述しました。
 はじめに辻村さんは、個人番号カードの発行数の少なさ、熊本・鳥取地震の被災者支援でマイナンバーが活用されなかったことなどを指摘し、国の言う「国民の利便性」に疑問があるとしました。
 また、マイナンバーを提供する勤労者の立場を代弁。番号の提供拒否に対する罰則はないが、経済的な力関係により事実上強制的に提供させられているのが実情だと説明しました。事業者側もマイナンバー収集は押し付けられた業務で、本音は「やりたくない」という現場実感を報告しました。
 税分野のマイナンバーの取り扱いでは、マイナンバーを記載する書類を限定する方向にあると説明。番号を物理的に人目に触れさせない保護対策として評価しました。一方で、利用範囲を民間にまで拡げようとする国の指針は法律の規定と矛盾し、二律背反の状況を生じさせている指弾。分野ごとの個別番号によって管理すべきだと主張しました。
 辻村さんの陳述後、小賀坂弁護士がはじめに裁判長から指摘を受けたことに対し、「カードの話は決して訴訟と関連がない訳ではない」と理解を求め、裁判長も納得されました。

 裁判長は、これまでの期日で原告側の主張は概ね出されたと判断。国に対し次回までに答弁を提出するよう求めました。小賀坂弁護士は、「主張の骨格は出したが、事故事例は今後も増えていくだろうし、海外との制度比較など言えていないこともある。今後も準備書面、意見陳述は継続していく」と伝えました。
 閉廷後はYWCAに移動し、報告集会を開催。45名が参加ました。集会では、弁護団からの裁判報告、質疑応答が旺盛に行われ、次回期日の日程(5月18日)を確認しました。

※写真は報告集会の様子です