2019年10月10日木曜日

横浜地裁が「不当判決」、控訴に向けて原告団・弁護団が一致団結 判決期日(2019/9/26)の概要報告

 県民ら230名が国に対してマイナンバー制度のプライバシー侵害等を訴える「マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川」の判決期日が2019年9月26日、横浜地裁・101号法廷で開かれ、原告の請求を棄却する判決が言い渡されました。原告団・弁護団はこれを「不当判決」として即時に声明を発表、同時に控訴する意思を示しました。

判決(要旨)
判決(全文)
原告団・弁護団「声明」


「ちゃんと説明しろ!」「不当判決、許さない!」/法廷内外で怒号飛ぶ
 全国8地裁で係争中の同訴訟において最初の判決ということもあり、テレビ・新聞など複数のマスコミが待機する中、原告ら120名超が横浜地裁に集結しました。マスコミ用の入廷の画撮りののち、傍聴前には抽選券が配布され、外れた原告らはマスコミとともに、地裁前で判決の旗だしを待ち構えました。

 午後1時10分に開廷。関口剛弘裁判長は、主文「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」を読み上げただけで閉廷しました。時間にして数秒、概要の説明もなく事務的な判決言い渡しに対し、傍聴席から「ちゃんと説明しろ!」との怒号が飛びました。
 地裁前で判決を待ち構えていた原告らは、原告代理人2人の「不当判決」の旗出しの一報に表情を曇らせ、「不当判決、許さないぞ」と怒りの声が上がりました。





憲法学の通説「自己情報コントロール権」を無視/時代に逆行
 その後、原告団は記者会見・報告集会の会場である波止場会館に移動。弁護団は判決内容の精査と声明文の検討のため、約1時間ほど遅れて合流しました。弁護団が合流するまでの間、応援に駆け付けた各地の同訴訟・弁護団から裁判の進行状況等についての報告、先に会場入りしていた神奈川訴訟の小林弁護士からの判決要旨の概要説明などが行われました。

 弁護団が合流し、14時30分から記者会見を開催。
 はじめに弁護団代表の小賀坂徹さんが判決内容とその問題点などを解説しました。特に、主な争点であったマイナンバー制度の憲法適合性(プライバシー権を保障する憲法13条違反の有無)について、判決文では「個人情報の収集、保有、管理、利用等の過程で行政機関の内外から不正な手段により漏えい、みだりに第三者に開示・公表される具体的な危険性がない」とし、プライバシー権の侵害にあたらないと記述。住基ネットを合憲とした2008年の最高裁判決から若干幅を広げた格好となりましたが、原告が一貫して主張してきた「自己情報コントロール権」については、その文言自体の記述が一切なく、実質的に認めないものとなっています。
 この点について小賀坂さんは、「個人情報の行方を個人が決定する権利が自己情報コントロール権であり、憲法13条で保障されているというのが憲法学上の通説」、「情報化が進んだ現代社会において、裁判所の判断は旧来の考え方を超えておらず、プライバシー権の重要性を全く理解していない」と指弾しました。
 一方、判決文では多発する漏洩事故の実態を鑑み、被告・国に対して「制度の運用に伴う弊害防止に向けた不断の検討を継続し、必要に応じて改善を重ねることが望まれる」と記述。この点について小賀坂さんは、「裁判所が国に対して厳しい注文をつけた。非常に珍しいこと」と評価。この間の原告の主張が反映された成果だと強調しました。

 続いて、第11回期日で人証訊問に立った、元内閣府情報公開・個人情報保護審査会常勤委員で弁護士の森田明さんが発言。判決内容については「結論ありきで強引」と糾弾しつつも、この判決が今後の憲法学の議論を深めるきっかけになるとし、「全国8地裁で初の判決であり、闘いはまだ始まったばかり」と原告らの奮起を促しました。


「政権に媚びた判決」に怒り
 次に、原告を代表して3名が発言しました。
 原告団代表の宮崎俊郎さんは、「最近になって『マイナンバーが見られても悪用されない』と主張し始めた今の政権に媚びるような判決と言わざるを得ない。判決文をやぶり捨てたい気分だ」と怒りを露わにしました。
 原告のYさんは「ネットやSNS上では、マイナンバー、マイナンバーカードに対して不満の声が大多数。私たちと同じ思いでも組織の論理や同調圧力で声を上げられない人が多いはず。こうした多くの国民がこの裁判の背後にいることを忘れないでほしい」と訴えました。
 最後に、原告であり医師の藤田倫成さんは、政府が2021年3月から始めようとしているマイナンバーカードの保険証利用について、「医療機関にマイナンバーが持ち込まれることになる。小規模な街の診療所で厳重なセキュリティ対策を施すのは困難」と、医療機関が今後直面する問題を指摘。マイナンバーが他人の目に触れる危険性を高めるような政府の施策と、その政府を忖度した合憲判決に疑問を呈しました。

判決の綻び、他地裁や控訴審で徹底追及
 記者からは、▼判決文で個人番号のみの漏洩では危険がないとした点、◆判決文が制度による行政の効率化を認めている点、●今回の判決が持つ意義―など、質問が出されました。
 小賀坂さんは、▽個人番号に特別な意味がなく漏れても大丈夫だというのなら、なぜ行政や事業者に厳格な番号管理を求めているのか。その矛盾に対する明確な解釈は示されていない、◇実態として、制度がどれだけ行政の効率に資しているのか、具体的な言及は何もない、〇判決は総じて10年以上前の住基ネット判決を踏襲しただけの判決で、少なくとも現状よりも悪影響を与えるようなない内容ではない。ただし、現実と照らして綻びの多い判決と言わざるを得ない。この綻びは他の地裁や控訴審で追及していきたい――と回答しました。
 なお、当日の模様はNHK、フジテレビ、TVKが放映。また朝日・読売・東京・神奈川・しんぶん赤旗、週刊金曜日の各紙が報じました。

 記者会見の終了後には報告集会を開催し、集まった原告の全員一致で東京高裁へ控訴することを確認しました。また、多くの原告や弁護士から地裁判決への怒りや嘆き、高裁での闘いに向けた意気込みなどが語られました。