国に対しマイナンバー制度のプライバシー侵害などを訴える「マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川」の第8回期日(口頭弁論)が2018年6月21日、横浜地方裁判所101号法廷で開かれました。当日は原告、傍聴者、原告代理人(弁護士)など84名が参集しました。
はじめに、原告側が提出した準備書面の確認を行いました。裁判長は、原告が主張してきた「情報提供ネットワークシステム」(コアシステム)の安全性の欠如などによる個人情報漏洩の危険性について関心がある様子で、被告・国側に対して「今後、システムの安全性を立証する予定はあるか」と問いました。国側の代理人は「予定はない。前回(第7回期日)で提出した準備書面が最終書面だ」と答えました。
個人情報保護委員会の機能不全は「極限に達している」
次に、原告代理人の小賀坂弁護士が陳述を行い、今年3月に発覚した日本年金機構(以下:機構)の再委託問題における「個人情報保護委員会」の機能不全の実態を追及しました。
「個人情報保護委員会」とは、内閣府の外局として設立した独立性の高い第三者機関で、行政機関や事業者での個人情報の取扱いに対する監視・監督権限を持ちます。
再委託問題に関しては、機構は番号法の定める委託会社(SAY企画)の監督義務があるにも関わらず、それ果たさず、▽契約や個人情報保護評価で禁止している再委託、▽契約で確認した人員より大幅に少ない人員での入力作業――などの違法行為を見逃しました。その結果、8万4千人のデータ入力漏れがあり、7万9千人の年金支給額に影響が出ました。こうした事態が起きたにも関わらず、個人情報保護委員会は機構に対して指導・助言、立入り検査といった権限を何ら行使していません。
小賀坂さんは「個人情報保護委員会の機能不全の程度は極限に達している」と指摘。委員会の体制だけでなくマイナンバー制度そのものの構造不備などを追及しました。また、住基ネット最高裁判決は、▽刑罰による犯罪抑止、▽監視機関の設置による適切な制度運用――などを合憲性の要件としています。この点からも、個人情報委員会の機能不全がマイナンバー制度の違憲性を明白にしたと訴えました。
マイナンバーで業務激増 困却する自治体の現場
続いて、原告を代表して大磯町議会議員の鈴木京子さんが意見陳述を行いました。
大磯町は昨年、住民税特別徴収税額通知書(特徴通知)の誤送付・マイナンバー漏洩を起こしてしまった自治体です。この原因として、鈴木さんは、▽役場内で制度運用の認識が徹底されていない、▽マイナンバー対応により役場の業務が激増し、構造的にミスが起きる状態になっている――など、国が法廷受託事務として自治体に押し付けた事務量の過重さによって困却している自治体の実情を訴えました。
大磯町では、保育料の算定時を例にあげ、マイナンバーの利便性が発揮されているといいますが、リスクとベネフィットを考えればマイナンバー制度を廃止したほうが国民の利益につながるとの考えを示しました。
「原告の主張に答えるべき」 不誠実な国の態度を批難
裁判長は、「互いの主張も概ね出され、裁判も終局に来ている」との認識を示しました。そして原告側が申し入れた立証予定の人証申請について確認。裁判長は「証人3」の地方公共団体の個人情報保護審議会委員(現職または元職)の人選に関心を示したようでした。
小賀坂さんは国側に対し、▽住基ネット最高裁判決の判断構造の問題(準備書面11)、▽個人情報保護委員会の機能不全(準備書面15)――については、原告側から合憲性の要件を満たさないことを具体的に主張したものであり、最低でもこの2点については国側として反論すべきだと求めました。しかし、国側は「先ほども言った通り、反論(書面提出)する予定はない」の一点張り。機構と個人情報保護委員会の問題についても「調査中」として、反論を拒否しました。小賀坂さんは、「原告はマイナンバー制度に対する懸念を合理的に表明している。しっかりと答えるべきだ」と、国側の不誠実な態度を追及しました。裁判長は「(書面提出を)強制はできない」との一言で、一連のやりとりを制しました。
裁判終了後には、開港記念会館に移動して報告集会を開催。裁判内容の報告などの後、次回期日の日程(2018年10月25日)を確認しました。